さかずきは、今は盃とか杯の一字を当てるが、もともと「酒杯」ということで、これも祭祀の際に
使われたものだろう。平安時代の日本では節日や公事のいわゆる節会で酒と食事が供されたが、
その折の饗宴では、酒を飲むのは土器の盃であったようだ。土器の杯は古代・中世では一般的で、
戦国武将が別れに際してこれで一献を酌み交わし、土に戻したものだと聞いたことがある。
茶懐石では最初の盃事で出されるのは、燗鍋と漆器の盃で、神前の結婚式にもその形式が見られる。
盞にしろ盃にしろ、献杯のために大体小さく平たく薄手に造られれている。
一方、ぐい呑みというのは、いわば野武士などががぶ飲みをする器で、酒器の格から言えば、
本来あまり上等なものではない。口縁もひきっぱなしにし、それほど整えないのが本来の形なのでは
ないかと考えているが、それだけに盞や盃より自由な造形的面白さがある。酒器の中にさまざまな
やきものが加わって、目と感触を楽しませるようになるのは、日本ではやはり安土桃山時代方以後の
ことだろう。 厚手の陶器質の酒器もその頃から登場するようである。(不東庵日常 細川護煕 2004年)
—— やきものに関する記述のある著作を紹介しています ——
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